米シカゴでトランス黒人女性射殺の被告に無罪評決
2026年10月、米イリノイ州クック郡巡回裁判所は、約8年前にシカゴで発生した24歳の黒人トランスジェンダー女性デジャネイ・スタントン(De'Janay Stanton)さん射殺事件の裁判において、第一級殺人罪に問われていたトレモン・ヒル(Tremon Hill)被告に対し無罪評決を言い渡した。長期に及んだ公判を経て下された無罪判断は、性的少数者に対する暴力事件の真相究明と司法の責任を巡り、全米の人権団体や地域社会に深い衝撃と失望を広げている。
事件は2018年8月、シカゴ南部の路地でスタントンさんが頭部を撃たれて死亡しているのが発見されたことに端を発する。警察および検察当局の捜査により、被告のヒルが事件前に被害者と数百通に及ぶメッセージをやり取りしていた事実が判明した。検察側は法廷において、被告がトランス女性との性的関係が露見することを恐れ、偏見や恥の意識から関係を隠蔽する目的で被害者を銃撃したと動機を主張した。しかし弁護側は直接証拠の欠如を指摘して状況証拠の信憑性に疑問を投げかけ、裁判所は合理的な疑いを超える立証が不十分であるとして無罪の結論を導いた。
この司法判断に対し、性的少数者支援団体や反暴力ネットワークからは強い抗議の声が上がっている。市民団体は、有色人種のトランスジェンダー女性が日常的に高い暴力犯罪の脅威にさらされている現状を指摘し、本件のような重大事件で有罪判決が得られない司法の現状がコミュニティの不信感を一層深めていると批判した。当事者や支援者らはSNSや追悼集会を通じてスタントンさんの名前を記憶し続けるよう呼びかけ、偏見に起因する犯罪に対する徹底的な捜査と司法手続きの公正性を求めている。
法制的な観点から分析すると、本件は性的少数者を標的とした犯罪において、隠された動機と実行行為の因果関係を立証することの極端な困難さを浮き彫りにしている。イリノイ州は被害者の性自認を理由とした正当防衛の主張を禁じる先進的な法整備を行ってきたものの、直接証拠が乏しい事案において公訴を維持することの難しさが改めて露呈した。スタントンさんの死を巡る無罪判決は、刑事司法手続きにおける客観的証拠の収集指針やヘイトクライム対策のあり方に重い課題を突きつけている。
ノースアメリカ編集部:リアム・スミス
出典:ABC 7 Chicago(Eyewitness News)法廷報道を総合
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